耕木杜…木を耕し杜(もり)に帰る  




5月に仕事でニューヨークを再訪した際、少し足を延ばして、
マサチューセッツ州・ハンコックにある、シェーカー・ビレッジを訪ねる機会を得ました。
世界の家具デザインに多大な影響を与えたシェーカー家具で有名なシェーカー教団が、およそ200年前に建てた村です。
電気もない時代に自給自足の共同生活を送り、手道具から家具、設備、木製の工業機械、
牧場や住まいなどの建築に至るまで、生活に必要なものはすべて自分たちで手作りしたという暮らしぶりがそのまま、
村全体が博物館として保存されていました。

それらの造作物のプロポーションや空間のフォルムはどれをとっても、とても簡素で美しく清潔で、
実用的に追及された機能性と洗練されたデザインが高いレベルで融合されており、全く古さを感じません。
驚くべき技能を目の当りにして、改めて、本当の豊かさとは何かと考えずにはいられませんでした。

この100年余り、我々は目先の便利を追うあまり、限りある資源とエネルギーを無尽蔵に消費し、
手に負えないゴミを排出し続けてきました。
そして、時間の短縮と引き換えに、我々から自分の頭と身体で考える時間を奪い、
自分自身の中にある能力や感性を失ってきたように思います。

便利さは、本当に豊かな暮らしを生んできたのでしょうか。
本当の便利さとは、暮らしや環境に寄り添い、そのものを無駄なく活用し、
最後まで使いこなせるということではないでしょうか。

今という時代は、本当の豊かさとは何かということに向き合う最後の分岐点にいると感じています。
溢れる情報や流行に流されることなく、自分の頭と体と感性をフル回転させて、
本当に心地よい空間とはどんなものかを探り学び合える機会を作っていきたいと思います。

耕木杜代表 阿保昭則