耕木杜…木を耕し杜(もり)に帰る  
  3月11日に発生した東北関東大震災によって、お亡くなりになられた方々のご冥福をお祈りいたしますと共に、
被災者のみなさまへ心よりお見舞い申し上げます。

自分にとって手道具は仕事をする時に使わないことはあり得ない。当たり前にいつも近くにある存在です。
いくつあってもいくつになってもいい道具を見ると付き合ってみたくなってしまう。
職人としての力の源のようなのかも知れません。
これから数回に渡り、道具別に紹介したいと考えました。
今月と来月は【鉋・かんな】。今月は鉋の種類や機能,、それと「削る」前の鉋のつきあい方について話します。

鉋いろいろ



鉋・削る目的や用途により種類も沢山あります。自分は同じ機能でも その都度 
削る場所の形や大きさ 材料など様々な条件に合わせ鉋を仕込みます。
自分の道具箱の中からよく使うものを一部ご紹介しましょう。

これは 一番良く使う
平鉋(ひらがんな)【寸八】
寸八と言っても刃幅は2寸3分5厘。
裏座の付いた2枚刃。樫の台 厚み1寸2分(36mm)、
長さ9寸(27cm)の台に仕込まれるのが一般的。
自分は厚み1寸(30mm)、長さ尺3寸(役40cm弱)の台に
仕込みます。
削っている鉋の刃先の感触が自分の手にちゃんと伝わり、より平らで美しい仕上げが出来るからです。


次は 面鉋(めんがんな)・木ネジ
板の前面(まえつら)、かまち組などの角を45度の面を
削り出すときに使います。
ネジで面幅を調整します。
これらは木でネジを切ってあります。
今はネジは鋼製がほとんど。
木ネジは昔の高い技術の裏付けがないと成り立たたちません。


左の二つは、
脇取鉋(わきとり)
鴨居などの、溝の底の脇を仕上げます(左右)。

右は、
底取鉋(そことり)
鴨居などの溝の面を仕上げます。

丸鉋(まるかんな)
面を円弧状に削り出す鉋。丸い柱もこれを使います。
左は内側曲面用のうちまる、右ふたつは外側曲面用のそとまる。
削り出したい曲面の径の大きさにあわせて台も、
刃自体も自分で加工し、砥石も同じ径にあわせ用意をします。
削り出すだけでなく仕上げる時は何度も刃を研ぐので
それぞれの径が変わらないようにしなければならなりません。

坊主鉋(ぼうずがんな)
角を丸く面を取る時に使用します
テーブルやカウンターなどの天板の角などの仕上げに
よく使っています。
ここでは見えませんが 刃も台と同じ形をしています。



立ち鉋
鉋の台の下端調整に使う鉋で、硬い樫を目に逆らって
高いところを削り取っていくので、
刃が直角に立てて仕込んであるのが特徴。
これに使う刃は他の面を削るのとはちがう性能が求められます。



これは今制作中の
大鉋(おおかんな)です。
削ろう会でも大鉋の製作に熱心なひともいますが実践で使っている人はほとんどいません。
作るときもその後の管理も台が狂わない工夫や仕込み、砥ぎ。
いずれも平鉋とは比べ物にならない位の精度が要求されます。
自分も以前からある程度の大きさのものは幅広の材料の仕上げで実際に使ってきましたが、
これは刃幅が1尺一寸(約333.3mm)!もちろん特別に作ってもらいました。

仕込みの途中。鑿(のみ)は清忠の一の叩き。

台はもちろん自分で用意します。精度の高い台にするためには構想してから約2年。
台の材質は他の鉋と同じ樫(かし)。見た目には一枚の木を掘り込んだように見えますが
台が狂わないようにするための工夫を中外様々な部分でしています。
これから更に調整を重ね、この秋の削ろう会には何とか間に合わせたいと考えています。

さすがにこれだけの大きな鉋は特別ですが、
実は、道具を働く道具として使えるようにするまでのプロセスが、
道具を使いこなすための最も大切だとも言えるかもしれません。
削る、掘るなどの実際の作業そのものは単純です。しかしその行為が早くきれいに的確にできるためには、
道具の性質や性能を理解することに神経を注ぐべきであり、
道具を自分で作ることが道具を理解するための最短の近道と思っています。
これも職人にとっては重要な技術といえます。
いい道具が作れればいい仕事が出来るようになります。

鉋をととのえる



鉋の台は消耗品です。
調整するうちに台が薄くなり、刃口が広くなると刃が逆目をおこし使えなくなります。
こうなると刃口を埋めたりもしますが自分は仕込み直します。
台はいくつあっても足りないので、自分の工房の天井にはいつもいたるところに
それぞれ作る鉋の大きさに合わせて、粗取りした樫の台が沢山並んでいます。

(※部屋の空気が対流して乾いた空気が上へ行くので、これを利用して台を乾かしています。)

【台堀り】
鉋は自分で台を掘って仕込まなければうまくはなれません。
ここに日本の鉋という最高の機能を持った道具を理解する大きなヒントがあります。
これについては次号でくわしく実況しますので 今回は台が出来上がっている状態を仮定して話を進めます。

【研ぎ】

刃は削る度に減っていくので、特に仕上げの時はこまめに研がなくてはいけません。
刃先が肉眼ではまっすぐに見えても、拡大してみると鋸の刃ように1~3ミクロンでギザギザになっています。
刃先をどれだけまっすぐにゼロにとぎ上げられるかもひとつの大きな技術。
大切なのは、見てるつもりで見えていないこと。もっと注意深く観察することです。
解りずらい時はルーペを使って確認します。
刃先の仕上げ方によって研石も使い分けます。

【台直し】

鉋台は天候・乾燥・湿度・季節等により常に狂うので、こまめな調整が必要です。
自分の鉋は一般のものより薄くて長いので、台の精度はとくに重要です。
写真のように光に透かして、状態を確かめ、
立ち鉋やスクレーパーで微調整していきます。
立ち鉋も使っていれば削れなくなってきますが
作業中に刃の出を調整したり研いでる暇はありません。
自分は削り取る条件に合わせ3丁を使い分けています。

台直しを的確にすばやくするために立ち鉋に高い性能が
求められることを知っている人はごく僅かです。
しかし絶対知るべきです。このことはまたの機会に紹介します。


【刃を差し込む】
刃を出す時は鉋の頭を叩き、抜く時は台の頭を叩きます。
刃先の出具合は削る材や目的にあわせどれ位出すか
調整するわけですが、
数ミクロンの薄削りをするときはほんのわずかの為、
神経を使います。自分は木槌を使います。
刃先はなんとなく見ていても見えるものではありません。

若い人たちは目も勘も鋭いのですから、しっかり見てどれくらい叩くとどれ位出るのか。
バランスよく出ているか 感も技術の一つとしてしっかりと養ってもらいたいと思います。
少し難しい仕上げになるとそれなりの年季のある大工でも調整だけに手間取って仕上がらなかった、
というのもよく聞いた話です。今では削ること自体が現場からなくなりつつあります。

【削り材と削り台】

さあ、削り始める前に見ておきたいことがあります。
削ろうとしている材と、それを乗せてる台です。削り台は削る材の幅や長さに見合ったもの。
厚みはある程度欲しい。自分は専用の材をいつも用意し管理しています。
使うときは更に削り材が不安定にならないように台の面は平らになっているか確認し、
ねじれやそりが出ているときは削って調整します。
自分にあった高さにあわせ台そのものが動かないようにしっかり固定し、
削り材を固定する金具を打ち付けて材を乗せ、ようやく削りの作業に入ります。
 
鉋自体の性能やそれぞれの削る人の感や技術、周辺の環境、いい仕上げをするためのいい削りというのは
奇跡のように思えてきます。
どんなに準備をしても、無垢の木は自然の具合で自分では思いもよらないようなこともおこしたりします。
しかし 天候・乾燥・湿度・季節を敏感に察知する感性を磨き、道具使いの腕き、
一分の隙もなく調整して、ひと削りをするその瞬間に向かうということは、我々職人の仕事だと思います。


日々の過ごしかた



さて、このような取り組みはそれぞれ他の道具についても同じことです。
家を建てるための様々な膨大な作業と並行して、道具一つ一つについてもしっかり突き詰めていこうとすると、
とても時間が足りなという人もいます。けれどもそれは錯覚です。
時間はいつでも自分で作り出すものです。

私は若い時分の早い段階から、見えないライバルと戦っていました。
他の人が日曜日に遊びに行ったり、夜TVを見たりお酒を飲んで油断している隙に、
また、仕事に出る前の5分10分、お昼を食べた後の40分…と、
時間を見つけては自分の腕や感性を磨くことに費やしてきました。
いつも何かを考えているので、寝ている間に答えが見つかることもあります。
何においても言えることですが、何かうまくいっている時は、うまくいっている理由は分からないもので、
うまくいかない時こそ、うまくいかない原因を探る絶好のチャンスです。
そうして日々、時間をみつけて研究を重ね、無の状態から誰もやったことのない
新しい何かを生み出すトレーニングを積んできました。

何かをするためにまとまった時間をとるのはとても難しいことです。
いざ環境が整って時間もたっぷり出来たとしても、怠けてしまうのが人間。
時間がない時こそ、上手く時間を利用して自分を鍛えてきましょう!

来月は
 鉋(かんな)の台彫りの実況中継です。
ぜひお楽しみに。

耕木杜代表 阿保昭則
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